「宏峯への道」目次へ戻る

 1-7 平衡感覚について


人間の老化の進行は大部分「筋力」に表れるものだと信じている人が多い。しかし、本当はそうではないのである。


例えば、相撲(力士)・レスリング(レスラー)が引退するころでも、力はそれほど大きく落ちてはいない。しかし、相手の攻撃によって身体のバランスを欠いたときに力が発揮できなくなり、対応能力を失う。また、相手と激突したときの一瞬の間、動作が素早く出来なくなるのである。生理学的に述べるのならば、眼球振盪という一種のめまい現象が起こるからである。目がまわっている間、一瞬動作が止まる。また、サッカーやラグビーなどでは、守備の選手をうまく避けて走り抜けることが要求される。このような時、相手にフェイントをかけなくては走り抜けることが出来ない。すなわち相手を一度左に振っておいて自分は右を走りぬけるというような技術が必要である。この時大事なのは動作の切り替えの素早さである。歳をとるとこのような動作が苦手となってくる。これは身体の平衡をつかさどる内耳の三半規管の機能が衰えてくることが原因である(逆に、内耳に障害のある人の中には、全く目が回らない人がいる)。


横綱になると練習やけいこではめったに転倒しないので、立った状態では強く力を出せるが、転びそうになったときなど特に動けず力を出せない。一方、子供のころの様にいつも転んでいると転倒してもケガをしない(三半規管の若さとも言えよう)。


円盤投げやハンマー投げでは平衡感覚を重要とするが、故竹内虎士博士は旧ソ連の宇宙飛行士のためのトレーニングを生理学的な立場から研究され、一般人や競技者における平衡感覚のトレーニングの必要性を述べている。